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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)311号 判決 1958年2月14日

主文

原判決中被上告人勝訴の部分を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人佐藤彦一の上告理由は本判決末尾添付の別紙記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

右上告理由第一点について。

原審は、原判示の空地には昭和一〇年三月当時既に通路が設けられており、被上告人はその当時から相当の根拠にもとづいてこれを一般の通路であると信じ被上告人所有地から公路に出入するため十年以上通行して来たものであつて、その間上告人その他何人からも異議がなかつた、という事実を認定し、これにより被上告人の本件通行地役権時効取得の主張を容認したものであることは原判文上明らかである。

しかし、民法二八三条にいう「継続」の要件をみたすには、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路の開設があつただけでは足りないのであつて、その開設が要役地所有者によつてなされたことを要することは当裁判所の判例(昭和二八年(オ)第一一七八号同三〇年一二月二六日言渡判決、民事判例集九巻二〇九七頁)とするところであるから、原審が前記のような事実を認定しただけでたやすく被上告人の前記時効取得の主張を容認したのは、民法二八三条の解釈を誤り審理を尽くさなかつた違法があるものといわなければならない。

それゆえ、原判決は他の論点につき判断するまでもなく破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官小谷勝重の補足意見があるほか裁判官の一致した意見によるものである。

裁判官小谷勝重の補足意見は次のとおりである。

承役地所有者にも異議なく、引続き「通行」して来たというだけでは、民法二八三条の「継続」の要件に当らず、したがつて原判決の判断を違法とすることは多数意見と同様である。しかし、「継続」の要件を当該通路が要役地所有者によつて開設された場合に限るとする第三小法廷の判例及び本件多数意見には賛同できない。

すなわち、たとえ当該通路が要役地所有者によつて開設された場合でなくても、要役地所有者が自己のためにする意思をもつて自ら当該通路の維持管理を為し(自らの労力または自らの費用をもつて)来り、且つ引続き通行して来た場合においては、また「継続」の要件を備えておるものと解するを正当とする。

よつて第三小法廷の判例を変更するため、裁判所法一〇条三号により、先づ本件は大法廷の審議に付すべきものであるとする意見である。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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